(1)キャリア権とは?

時代の流れは、現に従事する職務保障から、一定の雇用保障の要請を経て、生涯を通じたキャリア保障に向かっているとの基本認識から、法政策を主導する法理念として、諏訪康雄法政大学名誉教授により「キャリア権」が提唱されました。

キャリア権とは、個人がキャリアの展開をつうじて幸福を追求する権利で、広い意味では、二度とない自分の人生を送っていくなかで、個人としての人格を尊重され、自分なりの人生の展開をつうじて幸福を追求する権利です。狭い意味では、職業をめぐるキャリアを送っていくなかで、個人としての職業上の人格が尊重され、自分なりの職業生活の展開をつうじて幸福を追求する権利です。通例では、後者の狭い意味を指して使われることが多いとされます。

「キャリア権」概念は、21世紀に入り、多くの労働法規定に取り入れられるようになっています。例えば、以下の法律規定があります。

〇 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)(昭和四十一年法律第百三十二号)

第3条 労働者は、その職業生活の設計が適切に行われ、並びにその設計に即した能力の開発及び向上並びに転職に当たっての円滑な再就職の促進その他の措置が効果的に実施されることにより、職業生活の全期間を通じて、その職業の安定が図られるように配慮されるものとする。

〇 職業能力開発促進法(能開法)(昭和四十四年法律第六十四号)

第3条の3 労働者は、職業生活設計を行い、その職業生活設計に即して自発的な職業能力の開発及び向上に努めるものとする。

第2条第4項 この法律において「職業生活設計」とは、労働者が、自らその長期にわたる職業生活における職業に関する目的を定めるとともに、その目的の実現を図るため、その適性、職業経験その他の実情に応じ、職業の選択、職業能力の開発及び向上のための取組その他の事項について自ら計画することをいう。

〇 労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律(職務待遇確保法)(平成二十七年法律第六十九号)

第8条  国は、国民が職業生活設計の重要性について理解を深めるとともに、㋑労働者が主体的に職業生活設計を行い、自らの選択に応じ充実した職業生活を営むことができるよう、㋒職業生活設計についての教育の推進その他必要な施策を講ずるものとする。

※  上記条文中、㋐から㋒までのカタカナ記号は、条文自体には存在せず、便宜上、付したものです。

キャリア権の構造図(諏訪康雄法政大学名誉教授作成

(※)キャリア権は、職業生活(=キャリア)を通じて幸福を追求する権利のことですが、日本国憲法に根拠があります。

労働力の逼迫やキャリア形成への関心の高まりという追い風もあり、企業に人事権がある一方、労働者にはキャリア権があり、両者間での調整がもっと必要なのではないかというバランス論が受け容れやすくなってきています。キャリア権の理念は、人びとが意欲、能力、適性に応じて希望する仕事を準備、選択、展開し、職業生活を通じて幸福を追求する権利といった考え方に帰着しつつあります。キャリア権は人びとのキャリアを支える法的な基盤と捉えられます。

(2)キャリア権関連文書

【政府文書、研究会報告等】

〇 第8回 リカレント教育の推進に係る関係省庁連絡会議提出資料(文部科学省、経済産業省、厚生労働省)

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_43744.html

〇 厚生労働省「生涯キャリア支援と企業のあり方に関する研究会報告書」(2007年7月)

https://www.mhlw.go.jp/houdou/2007/07/h0720-6d.html

〇 厚生労働省委託事業 キャリア形成・リスキリング推進事業相談事業

https://carigaku.mhlw.go.jp/icc

〇 文部科学省「中学校・高等学校キャリア教育の手引き」(2023年3月)

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/career/detail/mext_00010.html

〇 経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書~ 人材版伊藤レポート2.0~」(2022年5月)

https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf

〇 厚生労働省「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」(2022年制定、2024年改訂)

https://www.mhlw.go.jp/content/11801000/001471782.pdf

(ガイドライン特設サイトは以下のアドレス)

https://manabi-naoshi.mhlw.go.jp

〇 労働政策研究・研修機構「第4期プロジェクト研究シリーズNo.2:全員参加型の社会実現に向けたキャリア支援」(2022年3月)

https://www.jil.go.jp/institute/project/series/2022/02/index.html

〇 ダイバーシティ就労支援機構:新労働政策研究会

https://jodes.or.jp/rodorc/

〇 認定NPO法人・キャリア権推進ネットワーク

https://www.career-ken.org/

【個人論考】

(キャリア権を最初に提唱した諏訪康雄教授の著作)

〇 『雇用政策とキャリア権』、弘文堂、2017年
〇 「キャリア権の立法化が個人のキャリア自律を後押しする」リクルート・マネジメント・ソリューションズ:インタビュー、2022年9月

https://www.recruit-ms.co.jp/issue/interview/0000001098

(3)職業能力開発関係文書

○ 厚生労働省 人材開発統括官付「今後の人材開発政策の在り方に関する研究会報告書」(事務局:人材開発統括官付人材開発政策担当参事官室)、2020年10月

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_13964.html

○ 厚生労働省 人材開発統括官付「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」、2022年6月

https://www.mhlw.go.jp/content/11801000/001471782.pdf

○ 厚生労働省「キャリア形成支援」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/shokugyounouryoku/career_formation/index.html

→「キャリアコンサルティング」など、個人のキャリアアップのための支援について紹介している。

○ 「あなたのスキルアップやキャリア形成を支援します!」(厚生労働省リーフレット)

https://www.mhlw.go.jp/content/001572345.pdf

→働いている方やこれから働こうとしている方が、スキルアップやキャリア形成をしていくための厚生労働省の支援策の紹介。

〇 寺田盛紀『日本の職業教育 -比較と移行の視点に基づく職業教育学-』、晃洋書房、2009年
〇 OECD(岩田克彦、上西充子訳)『若者の能力開発 – 働くために学ぶ』、明石書房、2011年
〇 佐藤厚『日本の人材育成とキャリア形成 -日英独の比較』、中央経済社、2022年
〇 髙井伸夫「キャリア権」法制化の提言~日本のより良き未来のために(法苑195号)、2022年1月

https://www.sn-hoki.co.jp/articles/article1889223

〇 ダイバーシティ就労支援機構:新労働政策研究会

https://jodes.or.jp/rodorc/

〇 労働政策研究・研修機構「キャリア・インサイト(統合版)」

https://www.jil.go.jp/institute/seika/careerinsites/index.html

〇 労働政策研究・研修機構「キャリア自律(個人主体のキャリア形成)に関する成果」

https://www.jil.go.jp/activity/area/rodosha/02/index.html

〇 三菱総合研究所「日本のジョブ型人事導入に向けたロードマップ-職の共通言語をいかに構築していくか-」(2024年9月)

https://www.mri.co.jp/knowledge/insight/policy/20240904.html

〇 三菱総合研究所「スキル可視化で開く日本の労働市場-2035年にミスマッチ480万人- 生成AIの雇用影響を乗り越える労働市場改革」(2023年9月)

https://www.mri.co.jp/knowledge/insight/policy/hd2tof0000005dqh-att/er20230913.pdf

(4)中長期的観点からの労働政策の展望、課題

○ 日本経済再生本部・閣議決定 2016年6月 「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」~日本産業再興プラン(成長戦略実行計画)

https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2016/0602/shiryo_04-1.pdf

○ 日本経済再生本部・閣議決定 2014年6月 「日本再興戦略」改訂 2014 -未来への挑戦-

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/seicho/pdf/honbunJP.pdf

〇 内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2023」(2023年6月)

https://www.cao.go.jp/press/new_wave/20230626.html

〇 内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2024」(2024年6月)

https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2024/decision0621.html

〇 厚生労働省「雇用政策研究会報告書~多様な個人が置かれた状況に関わらず包摂され、活躍できる労働市場の構築に向けて~」(2024年8月)

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000204414_00017.html

〇 厚生労働省労働基準局「労働基準関係法制研究会報告書」(2025年1月)

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_48220.html

〇 厚生労働省労働基準局 「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書(2023年10月)

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_35850.html

○ OECD   OECD Employment Outlook 2023 「AIと労働市場」(2023年6月)

https://www.oecd.org/en/publications/oecd-employment-outlook-2023_08785bba-en.html

〇 日本経済団体連合会「2025年版経営労働政策特別委員会報告-「付加価値最大化」と「人への投資」の好循環の加速-「賃金・処遇決定の大原則」の徹底-」

https://www.keidanren.or.jp/policy/2025/006.html

〇 日本商工会議所「多様な人材の活躍に関する重点要望」(2024年12月)

https://www.jcci.or.jp/news/recommendations/index02/2024/1219140000.html

○ 経済同友会「新たな政治体制下で求める労働市場改革に関する意見 -持続的な成長と継続的な賃金上昇の二兎を追う、令和モデルの労働市場を-」(2024年12月)

https://www.doyukai.or.jp/policyproposals/2024/241217.html

〇 日本労働組合総連合会(連合):連合ビジョン「働くことを軸とする安心社会-まもる・つなぐ・創り出す-」(2019年10月)

https://www.jtuc-rengo.or.jp/about_rengo/society/vision.html

〇 労働政策研究・研修機構「第4期プロジェクト研究シリーズNo.2:全員参加型の社会実現に向けたキャリア支援」(2022年3月)

https://www.jil.go.jp/institute/project/series/2022/02/index.html

○ 労働政策研究・研修機構「企業のキャリア形成支援施策導入における現状と課題」労働政策研究報告書,No.223.(2023年2月)

https://www.jil.go.jp/institute/reports/2023/0223.html

〇 リクルートワークス研究所「日本型雇用の問題は何か-Global Career Survey 2024」

https://www.works-i.com/research/report/gcs2024_report2.html